至急と言って渡された書類を仕上げ、ふと気配を感じ扉へと目を向けた。
すると聞きなれた声が扉の外から聞こえた。

「てーんぽうげーんすい♪」

その声の主は何度言っても窓を出入口にする人で、今日はどうして扉からなんですかねぇ。
足元に散らかった本に見向きもせず扉を開けるとやはり声の主は…。

「あぁ、。いらっしゃい…と言いたい所ですけど、どうしてここから?」

普段と違う行動に興味を持ち問い掛けるとはあっさりとその理由を述べた。

「天ちゃんの本を借りたいの。」

…なるほど、公用という訳ですか。

「書物庫も菩薩ちゃんの部屋も見たんだけど無くって…天ちゃんのトコなら絶対あると思うの!」

「…モノにもよりますが…なんですか?」

が小さなメモを僕にくれた。
それを開いて中を見ると走り書きで書かれた文字は…【歴代歌姫年鑑】。
そう言えば以前も誰かが探していたような…あぁ、捲簾でした。
僕はポンっと手を叩きへと視線を向けた。

「これならありますよ。以前捲簾が熟読してましたからね。」

「本当!」

喜ぶを見て視線を本棚へと向けた。
以前捲簾が読んでいたのだからおそらく端の方に置いてあるはずですね。
あの人気に入った物は一ヶ所にまとめる習性がありますから…。
上段を見たが見当たらない。
が部屋に入り横で同じように視線を本棚に向けている。
結構時間が掛かりそうですから先に面倒な事を終わらせてきましょうか。

「すみません。先に敖潤に書類を届てきても構いませんか?これさえ済ませれば今日の仕事は終わりですから。」

「うん。じゃあ探しててもいい?」

が視線を本に向けたまま僕に声をかける。

なら構いませんよ。」

僕は自然と笑顔をに向けていた。僕も丸くなりましたね。
机の書類をまとめて部屋を出る前にに一声かけた。

「無理しないで下さいね。」

しかし集中しているのか僕の声が聞こえない様子で一生懸命本を探していた。



邪魔をしない様、静かに部屋の扉を閉めとっとと事を終わらせようと足を速める。
上司である敖潤の部屋を訪れ書類を提出する。
二、三の言葉を交わしてそこを後にした。
足早に部屋に向かう僕の前を不機嫌な金蝉が通りすぎた。
最近の彼は随分感情が豊かになったものだ。
僕の存在に気付くと踵を返しこちらに向かってきた。

「おい!アイツ知らないか!」

突然言われても予想はつくがわざと惚けてみる。

「誰の事ですか金蝉?」

すると更に血管を浮きあがらせ金蝉の怒りは更に増幅された…僕のせいですかね?

「アイツって言ったらだ!アイツオレの部屋の本棚ひっくり返したままどっか行きやがった!見つけたら即刻オレのトコ来るように言え!」

「…は探し物をしているみたいですよ。」

僕は多少への攻撃が止む様フォローを入れて見た。

「知るか!いいなすぐ戻るよう言え!」

意味がなかった様だ。金蝉はそのまま僕の部屋とは逆の方向へと歩いて行った。

「…歩いた後には何も生えなそうですねぇ…」



少し遅くなったと思い部屋の扉を開けると思いも寄らない光景に出くわした。
どう見ても…捲簾がを押し倒している様にしか見えない。

「二人とも、人の部屋で何してるんですか?」

自分でも驚くくらいの冷たい声。
がこちらを見て何かを言っているようだが聞こえない。
人の部屋で…しかも神聖な本の上で…この人は…。

「天ちゃん!捲兄助けてあげて!」

の側まで歩き視線を捲簾の後頭部に向ける。さすが大将なだけありますね。
殺意を感じ取ったのか頭が微妙に僕の視線を避ける様に逆の方向へと動いた。

「天ちゃん、捲兄私を助ける為に本棚の下敷きになっちゃったの!!」

そんな捲簾を健気に助けようとするの声がようやく耳に届き、僕はが胸元で抱えている本のタイトルを読み取った。
どうやら目的のモノは見つかったらしい。

「それはそれは…」

の手を取り捲簾の下から引っ張り出す。
思ったより細い手に驚いたがそんな事は顔にも出さず、そのまま僕は腕立て伏せ状態の捲簾の背に座った。

「ぐえっ」

がビックリした顔をして捲簾と僕の顔を交互に見た。

探していた本はありましたか?」

何事もないか様に僕はに目的の本が見つかったかを確認する。
分かっていますけどね。はその問いで本来の目的を思い出したらしい。

「え?あ、うんあった!」

「お貸ししますよ。あぁそうだ、さっき金蝉がを探していましたよ。」

「え゛・・・」

の顔に僅かな緊張が走っていた。多分怒られると思ってるんでしょうねぇ。

「一応軽いフォローはしたつもりですが、あとは頑張ってくださいね。」

は善は急げといった様子で慌てて扉へと向かって行った。

「ありがと天ちゃん!じゃあこれ借ります!捲兄、助けてくれてありがと♪」

笑顔のににっこり微笑み、その背に手を振りながら側にあった大きな辞書を取り上げ捲簾の背に置いた。
そして間髪入れず側の本で捲簾を埋めもう一度その上に座った。
の足音が完全に途絶えた頃、下から蛙の声が聞こえた。

「て…てんぽ…」

「さて、本でも読みましょうか。新刊この辺にありましたよね…。」

足元にある本を拾い上げ本をめくろうとする。

「てんぽー!」

悲鳴のような捲簾の声を気にも止めず本を読もうとする。
やがて大きな溜息が聞こえぼそぼそした声が聞こえた。

「重いんですけど…。」

「当たり前です。わざとですから。」

さらりと言ってのけ更に体重をかけた。
すると急に高さが低くなりべしゃっという音が聞こえた。

「だらしないですねぇこれくらいで。ちゃんと鍛えてますか?」

「…ほっとけ。」

捲簾が起き上がる気配を見せないのでしょうがなく捲簾ソファーから腰を上げた。
やがて本の山から捲簾が姿を現した。

「僕の部屋で破廉恥な行為は慎んで下さいね。」

「そんなコトしねーよ!」

恥ずかしそうに視線を逸らし、が出て行った扉を見つめる捲簾が妙に寂しそうに見えたのは気のせいなのかそうではないのか…。

「まぁ罰としてこの本棚直してくれますよね?捲簾大将?」

にっこり微笑み大工道具を目の前に差し出すと捲簾は冷や汗を流しながらも了解の合図として片手を上げた。
一先ずこの騒ぎの責任は取ってもらいましょうか。
実はこの本棚…前から壊れてたんですよね。





BACK



それぞれの想い・・・と言う訳でひとつのお話をそれぞれの視点で書いてみました。
見て分かるとおりこれも、昔書いたものです(苦笑)
いやぁあちこちにこんなのが残ってるんですよ!
見つけた時は何だか懐かしいんですけど今見ると恥ずかしい(笑)
久し振りの天界編の更新ですが、残りあと二人も良かったら読んでやって下さい。